生きづらい。
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2019/12/29
「ライブに来てくれませんか」そう聞けば「あんなに眩しい世界はわたしにはちょっと難しいかな」と言った。「エスコートしますよ」と続ければ「それはファンの子たちに刺されちゃいそうで恐れ多い」と笑った。
出会った時から、彼女はひとりでずっと畑を耕している。春になれば種を蒔き、夏は枯れぬよう世話を焼き、秋が訪れたら収穫を慶び、冬を静かに耐える。そして再び春になれば種を蒔く。ただ、それを繰り返していた。過去も未来も何ひとつ変わらない。跡継ぎなんて居やしないのに、旦那が残したというこの場所を、彼女は生涯護り続けていくだろう。
別に、棄てろなどとは想っていない。ただ、きみの世界はもっと広いことを知って欲しい。そして、おれを、知って欲しい。わざわざ訪ねてやってきたってのに、来客に構わず土いじりを続ける彼女の小さな背中をじっと睨む。
「不毛だとは思わねぇんですか」
「なにが?」
「代わり映えしないこの毎日が」
「んー、わたしはこの生き方しか知らないからなぁ」
彼女はいつも、誰も見てない。最低限の関わりの中で質素にぼんやりと生きているだけ。それなのに、彼女の左手にある鈍い色した銀の輪は、まるで今も片割れが戻って来ることを期待しているように存在していて、おれは鬱陶しく感じていた。
「わたしはさ、実はこれでも結構しあわせなんだよ。ネズくんにはそう見えないかもしれないけど」
ああ、見えないね。おれにはきみのその幸せとやらが不憫でならない。
ふと、『一夜限りの事情(ゆめ)でも、女は永遠(とわ)に出来る』なんて歌を、かつて彼女は鼻歌まじりに歌っていた。それは、その手の銀色を永遠に忘れられないことだと受け取れる。同時に、一度交わってしまえば永遠に残れるとも、おれはそう受け取れた。──あの歌を彼女がどんな気持ちで歌っていたか、おれは知らないけれど。
彼女の中に、永遠に残りたい。そんな衝動だけだった。しかし、おれを突き動かすにはそれだけでも十分で、彼女におれを刻み込むのは、驚くほど容易すかった。
もっと、相応しい季節に出会えていたら、きみは振り向いておれに笑いかけてくれただろうか。……そう考えちまうおれの方が不毛なやつだと嗤えてくる。まあ、もう誰一人として嗤わせねぇけど。
今は根雪の下で、花が開く時を待ちますよ。ようやく太陽の日差しが和らいで実りの秋になったら、きみをこの地から刈り取ってしまいましょう。
write:2019/12/29
edit :2020/06/22