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ずっと想い焦がれていた娘を娶った。ただそれは、周囲からはあまり歓迎されないものだった。原因を強いて挙げるなら、娘の精神状態だろう。ツバキ以上に引っ込み思案で、すぐオレの後ろに隠れるような娘だった。年頃になっても変わらないその様子に、周囲は大人にすべく少々無理強いを働いた。結果娘は、精神をきたしてしまったようだ。悪夢を見る、金縛りにあう、誰かの視線を感じる。そうして娘は、緩やかに死を目指した。そんな状態の娘を放っておけないオレは、ついに娶る宣言をしたというわけだ。反論の声が届かないよう娘を家に囲い、オレだけしか見聞き出来ないようにする。オレがリーダーとして外に出ている時は何もしてやれないが、家に戻れば存分に甘やかしてやる。娘にとって信頼に足るオレだけがいれば、精神は自ずと快方へと進んだ。──それからだ、娘がよく眠るようになったのは。初めは先の同衾で身ごもったからだと思ったが、腹が膨れる様子は感じられない。元々朝には弱くて見送りもろくにしてはくれなかったが、出迎えは辛うじてしてくれていたというのに、最近は夜も寝てばかりだ。違和を感じてある日に可能な限り家に居てみれば、娘は一日中眠っている。流石に異常だと思い、揺さぶり起こしてやると、「なんかね、セキさんのところだとよくねむれるの」「あくむみないし、かなしばりにもあわない、セキさんだけしかいないから、あんしんできる」「こうしてセキさんのにおいにつつまれてると、おちつくんだ」「もうずっとねむっていたい」なんて、恍惚として語るものだから、オレはもう何も言えなくなった。娘がオレといる時間が幸せなら、オレも幸せだと納得させる。眠ってばかりだから食べ物を取る機会も減って、娘は随分と痩せ細ってしまった。久しく声も聴いてなければ、目の色も忘れかけている。それを寂しいと思うオレだが、しかし娘の寝顔は、たおやかな幸福のかたちをしていたから、もう考えることはやめることにした。

静謐の底で眠る

 

write:2022/03/11

edit  :2022/03/19

words by icca

瑪瑙(@_MNU260)名義

words by icca

 

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