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身寄りのない者は、長の元で四十九日を過ごす。それは彼女も同じだった。器量の良い娘だった。聞き分けの良い娘だった。せがれの嫁に欲しかった。皆は口々にそう言い、彼女との別れを惜しむ。オレはそれを聞きながら、薄情なもんだと心の中で一蹴する。彼女の病に恐れて、オレとヨネしかその最後を見送ってねえのに。面影すら分からなくなった途端にわらわらと集まりやがって。全部燃えちまえばもういいのかよ。家に着いてそう悪態をつけば「仏さんの前でそんなこと言っちゃいけないよ」とヨネに咎められた。分かっている、こんなこと言ったって彼女は悲しむだけだ。最後までオレや皆のことを気にかけて、ずっと謝っていた。苦しいだろうに、死にたくねえだろうに、最後まで自分を叱咤してた。そんなやつだってことを、オレが一番分かっているのに。彼女の尊厳のためにも、やるせない呪詛を必死に飲み込んだ。ヨネが自分の家に戻り、オレは彼女と二人きりになる。しんと静まり返った部屋で、オレはおもむろに彼女を持ち上げる。生前の彼女よりも重いそれを開ければ、彼女の残骸が仕舞われていた。小柄な彼女は、あまりすり潰さずに収まってくれた。それが良いことか悪いことかは分からない。入れることに集中していたから、もう何がどこの部位なのかも分からない。でもそれらは全部、オレが看取って、燃やして、かき集めて詰め込んだ、紛れもない彼女であることは確かだった。目が捉えた小さな欠片をひとつ摘む。白乳色のそれは、どんな食い物よりも美味そうに見えた。躊躇いなく口に含む。奥歯で噛み締めば、ぽり、と。それは脆く崩れて、口の中がざらつかせた。ただただ埃っぽい匂いが口いっぱいに広がる。味なんて無いはずなのに、彼女を体内に取り込んでいる、という背徳的な自分の行いに陶酔する気分だった。ずっと彼女とひとつになることを夢見ていた。それが今、叶っている。彼女がまだここにいる間に、全部喰らい尽くしてしまおうか。どうせこれを持つのはオレだし、もし誰かが持ったとしても、元々小柄な彼女が病でこれだけ軽くなったと思うだけで中なんて覗き込む真似もしない。土の下に仕舞われちまえば、もう誰も確認することなんてしない。そう結論づけて、二口目を貪る。やはり埃っぽい細かな砂利の感触だった。彼女はこんなオレを見て、何を感じるだろうか。確かめる術も無いまま、薄っぺらい欠片を取り出す。ああ、これは分かる、きっと目元の部分だ。生気が喪われていく彼女の瞳を思い浮かべながら、口付けるように口へ放り込む。かり、とかわいた音が、歯を通じて全身に広がる。彼女も喜んでいるようだった。

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つみひとつききすててすききつとひみつ

 

write:2022/02/21

edit  :2022/03/19

words by icca

瑪瑙(@_MNU260)名義

words by icca

 

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