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2022/01/10

※相互さんのお誕生日ユメショ

 

「すみませんでしたね、」
 静かになった部屋でソファに座りながら、先ほどまで広がっていたパーティーの余韻に浸っていると、食器を洗い終えたネズがダイニングから戻って来た。
「今日きみの誕生日って教えたら、あの子張り切っちゃって。おれはここまで大事にするつもりは無かったんですけど」
 わたしが仕事を終える頃に、タイミングよくマリィちゃんから『ウチに来て!』という連絡があったのだ。連絡の通りにネズとマリィちゃん宅へ赴けば、そこは可愛らしい装飾が施された小さなパーティー会場。マリィちゃんに背中を押されるがまま席に着いて、わたしは二人にささやかながらも思い切り祝ってもらった。
「ううん、嬉しかったよ。やっぱり誰かに祝ってもらうのは良いね。楽しかった」
「それならおれも嬉しい限りですよ」
 きっと散々手伝わされたんだろうな。高いところの装飾とか、ケーキ作りとか。マリィちゃんにあれこれ支持されて動くネズの姿が目に浮かんで、「んふふっ」と笑いがこぼれてしまった。
「何笑っていやがるんですか」
 空いていた右隣にネズが座った。ちょっと不機嫌そうな声に反して、その目は柔らかく弓なりを描いている。
「なんでもなぁい。あ、ねえマリィちゃんからのピアスどう?」
 話題を変えようと、わたしは髪を耳にかけるようにして耳元をさらした。
 マリィちゃんからは、お揃いのピアスをもらったのだ。わたしでは選びそうにない、甘くて可愛らしいデザインだけど、マリィちゃんが一生懸命考えて選んでくれたものだから、これから多用してしまいそうだ。
「もちろん似合ってますよ」
 ピアスのデザインをよく見ようとしてか、ネズの手が伸びてくる。ピアスを愛でるような、シャラっとした音が聞こえるだけで、実際に見えないのが少しだけもどかしい。
「おれの妹はセンスが良いよね」
 隙あらば妹自慢。もう聞き慣れたものだから、今では気にしなくなった。なんたって、わたしにとっても可愛い妹だもの。
「ところで、ネズからはプレゼントないの?」
 マリィちゃんはパーティーの時にすぐ渡してくれたけど、ネズからはまだもらってなかった。パーティーの時は、きっと主催のマリィちゃんに花を持たせたかったんだろう。わたしとマリィちゃんがきゃいきゃいと話している時のネズは、静かにコーヒーを飲んでいる姿しか見てない。
「まさか、あのディナーたちがプレゼントだったりする……?」
「きみはおれのことをそんな無粋な男だと思ってるんです?」
「で、ですよねぇ」
 バノフィーパイまで用意してくれた豪勢なディナーは、一応プレゼントではないらしい。わたしの好物ばかり並べられているものだから、これプレゼントですと言われても喜んだんだけどな。
「ちゃんと用意してるよ」
 そう言ってネズはソファから立ちあがり、近くのチェストの一番上の引き出しから何やら取り出した。それから、元いたところまで戻って来て「手、出して」と言われるがまま両手を差し出した。
 広げた両手に落ちてきたのは、ベロア生地の青い箱。両手に収まるほどの大きさのそれが一瞬何か分からなくて、わたしは息を飲み込んでから、また隣に座ったネズを見やる。ネズは穏やかに笑っていた。
「早く開けてごらん」
 まっすぐ見つめられるアイスブルーに耐えきれなくて、箱に目を戻してから、箱をそっと開けた。
「……わ」
 中身は、シルバーリングだった。いや、箱の時点でアクセサリーだとは分かってはいたけれど。ネズがリングをくれるとは思ってなくて、少し驚いてしまった。しかも、リングは二つあって、それぞれ若干大きさが違う。
「おれはまだ、こういうシンプルなやつしか買えないけどさ、」
 ネズが、比較的小さい方のリングをゆびでつまんで、ゆっくりと箱から取り出す。ピカピカに磨かれたそれを、ネズは手に取ったわたしの右手の薬指に通していく。
「今はこれで」
 ぴったりと収まる様子に、これまた驚いた。
「い、いつ調べたの!?」
「さあ、いつだろうね。ほら、おれの指にもやってくださいよ」
 差し出されたネズの右手を前にして逃げ場の無いわたしは、流されるまま箱からもう片方のリングを取り出した。それからネズ手を取って、震える指先で薬指に通す。こちらも綺麗に収まって、何だかずっとそこにあるような錯覚になる。
「これからもよろしくってことで」
 最後にネズは、わたしのリングに恭しくキスを落とすものだから、わたしはもうパニックになって悲鳴すらあげられなかった。

「あ、アニキやっと渡せた? 良かったあ! あ、あんねおねいちゃん。そのリング、半年前からそこに眠っとったんよ。なんか交際記念日にあげよーとしとったみたいやけど、結局渡せんでさ。やけんマリィが今日渡せ! って今日おねいちゃん呼んだんよ。ほんとアニキってここぞって時に弱かね!」
「……妹よ、最後くらいは兄に格好つけさせてください」

 

write:2022/01/10

​edit  :2022/02/14

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