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2021/11/02

※死者の日

​※死ネタ

 ネズくんへ。 

 お元気ですか? わたしは元気です。

 ガラル地方は今日も寒いですか? シンオウ地方も負けないくらい寒いです。

 ……改まってお手紙を書くって、なんだか照れくさいね。何を書いたらいいか分からないや。

 ネズくんへ。

 元気かな?

 シンオウ地方には、コンテストっていう、ポケモンの5つの魅力を引き出すイベントが盛んだよ。これが意外と奥深くて、なかなか面白かった。

 タチフサグマくんなら、かっこよさかたくましさで優勝できそう。なーんてね。

 ネズくん、ライブとしてのパフォーマンスは好きだけど、見世物としてのパフォーマンスあんまり好きじゃないもんね。

 でも、いつかコンテストに出てるネズくんとタチフサグマくんを見てみたいかも。

 ネズくんへ。

 この間、新曲出したよね。とっても良かったよ!

 シンオウ地方に居ても聴けるなんて、なんだか嬉しくなっちゃった。

 他の地方でもネズくん人気あるんだから、地方ツアーとか組んでみたらいいのに。

 シンオウ地方に来てくれたら、何が何でもチケット手に入れるよ!

 ネズくんへ。

 誕生日おめでとう!

 わたしからは、シンオウ地方で作られた時計を贈ります。

 アンティークものだよ! 昔の職人さんが、ひとつひとつ手作りしたみたい。すごいよね、時計だけタイムスリップしてきた感じ。

​ その分、繊細ではあるけどね。取り扱い注意!

 デザイン的にネズくんが好きそうなものを選んだつもりだよ。

 気に入ってくれたら、嬉しいな。

 ネズくんへ。

 あのね、わたし─────

 ──カチリ。

 先ほどまで規則正しく動いていた秒針が、突然止まった。これでもかと最大限まで巻き上げたというのに。あの日、彼女からもらった時計は、日に日に保ってくれなくなっている。アンティークの巻き時計のためか、修理に出したいと考えても、視れる技師が居ないそうだ。

 あの日、不注意で落としてしまったから。彼女が、雪山で足を滑らせて、命を落としてしまった時と、さながら運命を共にするように。

 手紙から顔を上げれば、テーブルの上にある二つのティーカップが目に入る。その中身は、おれの好きな紅茶だ。彼女のお気に入りは、昨年ついに廃盤となってしまった。

 時の流れというものは残酷で、彼女は過去に攫われたまま、おれだけがずっと現在に取り残され、そして未来へと抗うことも出来ずに流されて来た。おかげで彼女との記憶が色褪せていることに気付けたって、ろくに哀しむことも出来ない。

 ただ、唯一。彼女がおれ宛へ、一方的に送っていた手紙だけが、当時の彩りを教えてくれた。

 だから、手紙を読み返すこの日だけ、おれは彼女に許しを乞う。きみを置いていって、今も生きてしまっていることを。

 

write:2021/11/02

​edit  :2021/12/18

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