top of page

2021/09/10

※相互さんのおたおめ夢

​※肌色表現あり

「ネズはやさしいよね」それは、人によっては褒め言葉になるかもしれないが、おれにとっては地獄に突き落とされる言葉だ。
 本当は分かっている。どんなにやさしくしたって、それだけでは彼女の心を揺り動かすことなんて出来ないことを。彼女は恋人に唯一無い『やさしさ』に飢えているだけで、それ以外は全く不要。やさしさしか取り柄の無いおれは、やさしくする以外に彼女を振り向かせる術を知らなかった。
 分かっていてなお離れられないのは、なんと悲しいことか惚れた弱み。加えて、いつも恋人に暴力を振るわれてボロボロになる彼女を放っておけなくて、おれならそんなことしないとアピールしたくて、どうしても構ってしまう。
 だから今日も、可哀想な彼女の心に付け入るようにやさしくする。それが、おれが出来る唯一のことだから。
「部屋暗くして」と言われれば、暗くしてやる。薄暗い街の育ちだからか、夜目は利く方だ。だから、仄かに光るような彼女の輪郭が、おれには眩く見えた。
「ギュッてして」と両手を広げられれば、その柔くて小さな身体を抱きしめてやる。人肌に恋焦がれる彼女は、ひとつに繋がっているとしても、その隙間を埋めるよう強請る。だから、おれは出来る限り腕に力を込めた。
「あッ、ナカだめ、だめぇ……ッ♡」きっとこれは、彼女が求めているおれのやさしさの中でも一番残酷かもしれない。けれども、この関係になって一度たりとも拒まれたことは無かった。ダメだと言いつつも、脚を組んで退路を断たせてくるから、きっと策なのだろう。言葉とは裏腹におれを締め付ける彼女は本能的だから、容赦無い衝動が目を眩ませた。迎えた絶頂から溢れる快感を逃そうと暴れる彼女の四肢を抑えて、おれは彼女の奥にある神秘に命を刻む。そのまま、希望を孕んでしまえばいいのに。今まで期待をさせたことはない彼女の下腹部にいつもの呪詛を込めながら、甘く漂う哀愁を噛み締めた。
「ネズはやさしいよね」それはつまり、ただの感想に過ぎなかった。誰よりやさしいのか、誰がやさしくないのか。その一言だけで全て解ってしまう。おれにとって、その言葉は褒め言葉以前に絶望しか無い。
 素肌を青く彩る痣を掠った時が一番甘い声が出るなんて、知りたくもなかったよ。

​ 

write:2021/09/10

​edit  :2021/12/18

bottom of page