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​2021/08/06

建築はさほど興味無かった。とはいえ、問答無用で連れられて来たからには、次の曲のイメージになるような何かを得たい。そう考えて各所のパネルをひとつひとつ読み込むおれをよそに、彼女は模型ばかり見入っては先へとさっさと進んでいった。曰く「わたしは構造専門だもん、文字読んでても分かんないよ」とのこと。意匠の真意を読み取って構造に取り入れることも重要なのではと思うが、「それなら図面の方が良い」と言われるのが目に見えたので何も言わないでおいた。ようやく追いついた先で、彼女はある模型を前に何か思案している。「200、いや250かな……」おそらく模型のスケールを測って、そこから実物の大きさを想像しているのだろう。スーパーの割引計算は全く出来ないくせに、こういう分野には非常に特化している。どういう頭の構造しているのか、おれにはそっちの方がさっぱり分からなかった。特に声は掛けず隣に立ち、近くに設置されたパネルを読めば、それはここからほど近いところにあることが分かった。間違いなく見落としているだろうから、おれが憶えておかねぇと。読み終えてそっと彼女を見やれば、顎に手を当ててまだ何かブツブツと考えている様子。これを言うのは後にしておこう。また彼女と出かける口実が出来たな。そう自然と考えてしまうほどには、彼女の興味に付き合うのは別に嫌いじゃなかった。
 

write:2021/08/06

edit  :​2021/09/23

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