生きづらい。
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2021/01/25
※ショタ
人づてに、またおねいさんが付き合っている恋人に浮気されて、なおかつおねいさんが間女だったようで一方的に別れを告げられた、という話を聞いて、おれは「ふぅん」と興味なんて無さそうに装って、喜びを奥歯で噛み締めた。田舎というところは、こういった噂話の伝達が恐ろしく早い。内容が不幸であればあるほど。
いつものパブで飲み潰れて居ると、お店をしているジムトレーナーさんに呼び出されて、おれは仕方なく迎えに行く。いつからか、おねいさんの保護者的役割を任されるようになった。お酒にあまり強くないのに、誰かに振られたり、恋人に別れを告げられたり、何かあるとこうしてお酒にまみれては、おれが呼び出されて持って帰るのが一連の流れとなっている。面倒です、なんて人に言いつつも、内心はおねいさんと言ったらおれ、みたいな方程式が生まれたことに喜んでいるのだけど。
目的地のパブには、メッソンみたいにめそめそ泣いているおねいさんが、バーカウンターに突っ伏していた。
アルコールのせいなのか、泣き腫れているからなのか、どっちなのか分からないくらい真っ赤になっている目元が、引いてしまうほど痛々しい。おれに気が付いたおねいさんはおもむろに身を起こし、そして打って変わって素早くおれに抱き着いて、しなやかな四肢を絡ませて来た。
「ネズぐん゛~~~ぎいでぇ……」
「もう知ってますよ。ほら、帰りましょう。立ってください」
おねいさんの脇に腕を入れ無理矢理立たせて、宙ぶらりんになった腕を首にかける。よろよろとおぼつかない足取りに、おねいさんはおれにしがみついた。……全く以て、どちらが子供なのか分からない。そんなおねいさんのことをおれはうざったく感じているように振る舞いながら、アルコールの隙間に鼻腔をくすぐる柔軟剤の華やかな香りに、かすかに混じる汗の匂い、加えて肩に押し付けられる柔らかな感触に、心臓を激しく脈打たせていた。
「歩けますか?」
「うん、だいじょぶ」
ひと言交わして、お店の人に会釈をしながら外に出る。日付を跨ぐ前の冷たい夜風に体温が高まっていることを思い知らされ、密着している部分から伝わらないか少しだけ肝が縮んだ。
出来る限りおねいさんの歩幅に合わせて、帰路に着く。道行く人は疎らで安心した。いや、誰に見られたとしてもいつもの光景として見られているだけだから大丈夫なのだけど。
「自宅に帰りますか?」
顔を前に向けたまま、傍らのおねいさんにそう聞くと、おねいさんは少しもじもじとした様子で口をつぐんでから、こう言った。
「えと……ネズくん家、行っていい?」
「しかたないですね、いいですよ」
「ありがと、……えへ」
嬉しそうにはにかんでいるおねいさんの横顔が視界の隅に映り込んで、おれも心なしか嬉しくなる。
おねいさんよりもずっと年下だし、身長もまだ追い越せるほど伸びていないけれど、でも、他の誰でもない、おれに、おれだけに、こうして凭れ掛かるように頼られることは、何よりも優越だった。年齢なんて関係ない、慎重差もお構いなし。精神的に頼れる存在が、どんなに情けない姿を晒しても良いと思っている存在が、最後に追い縋りたい存在が、家族でも友人でもなく、ただ親の近所付き合いで仲良くなっただけの、一回りも年下のおれ、おれだけ。
「あのね、ネズくん。ずっとね、好きだったんだ」
一瞬おれに告白したのかとドキリとしたけど、この酔っ払いの戯言はいつも主語が抜けていることを思い出す。
「この人と結婚するんだ~って、そう思って、信じてた、いつかお母さんとお父さんに紹介したいって、思ってて、」
「……そう、ですね」
おれじゃない、元恋人の方。知ってますよ、ずっとあなたの話を聞いていたから。どこが好きだとか、なにが好きだとか、おれも言えちまうくらいに、繰り返し繰り返し、心臓を握り潰されるような痛みを堪えながら。惚気たいほどおねいさんが本気だったことがよく分かった。だから余計複雑だった。そんなに、あんな浮気男のことが好きだったのだと、まざまざと見せつけられて。
「何が、悪かったのかな、わたし、気付けなかったかなぁ……」
おねいさんは、何も悪くねぇですよ。そう、言えたら良いのに、意地の悪いおれは口をつぐんで何も言わなかった。傷心につけ込もうとしても、おねいさんは気が付いてくれない。まだ未成年のおれの言葉なんて、大人のおねいさんには響かない。だからこうして、行動を起こすしか無かった。企てて、仕向けて、待ち構えて、案の定予定通り。おねいさんもお酒を飲んで、酔っ払って、過去の恋人など忘れて、ほら元通り。これで良い。これが最善。おれが大人になるまで、どんなに心臓を握り潰されようとも、何度も繰り返す。そして、おねいさんに徳を積んでいく。それはいずれ、おねいさんに良心をおれに縛り付ける締結となるから。
おねいさんは明日、こんな性根腐ったおれに対して「昨日はごめんね」なんて謝るのだろう。おれの思惑など何も知らないまま、目元を赤くしたまま、泣き疲れて少し枯れた声のまま、年上としての威厳を保てず申し訳なさそうに。おねいさんの恋路をめちゃくちゃにしてしまった罪悪感と、ひとつまみの優越感。抱え込んだ醜い感情を隠すように蓋をして「いいんですよ」と子供らしく彼女に笑いかけるのだ。
write:2021/01/25
edit :2021/02/06