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​2021/01/13

※Happy Birthday to Me ♡

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あまり雪を見ないスパイクタウンでも、微かにちらつくほどに冷え込んだその日。「お誕生日、おめでとうございます」「ありがとう、ネズくん」玄関先でのお祝いの言葉も早々に「それじゃあ、一緒に来てください」と約束に手を引かれ連れられたのは、ワンランク上のアクセサリーショップ。年下の彼にはまだ早いような、目の前に並ぶ煌びやかな景色に思わず隣のネズくんを見やれば、わたしの反応を伺っていた視線とかっちり合う。その瞬間、彼はパッと顔を逸らして、「その、おねいさんの欲しいものが、思いつかなくて。でもおれ、ジムリーダーになりましたし。ひとつくらいなら、買ってあげれます、から」とちょっと照れくさそうに言った。まだまだ子供だと思っていた弟のような存在が、いつしかお金で大人ぶるようになり、ふと子供の成長の早さを痛感し、嬉しいような寂しいような不思議な気持ちになる。それでも、寒さか照れか、耳の赤いところがやっぱり子どもっぽくて、頑張って背伸びしている様子が何だかくすぐったい。「それじゃあ、お言葉に甘えて」とお店の中を見回る。その間ネズくんは、わたしの後ろをちょこちょこついて回り、わたしが手に取ったものを食い入るように観察する。その一生懸命な姿に微笑ましく思いつつ、最終的に手に残したのは、隅の隅に追いやられていた1本のかんざし。「それ、なんですか?」と不思議そうに見るネズくんに、わたしはかんざしについて軽く説明する。「カントーやジョウトでの髪飾りだよ。こう、髪の毛をまとめる時に挿して使うの。あんまりメジャーじゃないけど、わたしは好きなんだ」わたしの『好き』という言葉にネズくんは目を見開いて、エメラルドの淡い瞳をキラキラさせた。「じゃあ、それにしましょう」「うん、お願い」一緒にお会計を済ませて、わたしの希望から包んでもらわずに、髪の毛に挿す。その挙動を焼き付けるように見守るネズくんに、少しだけ照れてしまう。「似合う、かな?」と後頭部を向けつつネズくんに聞くと、首を何度も振って「とっても、」と詰まったように言うものだから、その健気さに胸が締め付けられる。帰り道、「その、後でマリィと一緒にまたお家いきますけど、このことはおれとおねいさんの秘密にしてください。実は、マリィと一緒におねいさんにプレゼントするって話してて。でも、おれはおれだけで何かあげたくて、」と少し申し訳なさそうに話すので、宥めるように「うん、分かったよ」と伝えた。きっと自分の欲望と良心に板挟みになって悩んでいたのだろう。「二人だけのナイショね」と唇に人差し指をあてて笑うと、ネズくんも安堵したように笑ってくれた。その別れ際に、ひとつ教えてなかったことを思い出す。「そういえばね、かんざしって昔は結婚指輪の代わりだったんだよ」それを聞いたネズくんは刹那的に固まり、そしてみるみるうちに顔を真っ赤にした。衝撃に言葉が出ないのか、口をパクパクさせて、何だかコイキングみたいで面白い。「お、おれ、ぜったい幸せに、しますから」わたしの両手をギュッと握りしめる、ぬくもりあふれたひと回り小さな白い手。感極まって振り絞られたネズくんの声が、どこまでも澄みきるように切なく聞こえて、わたしはただ「ありがとう」とか答えられなかった。

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write:2021/01/13

​edit  :2021/12/18

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