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​2020/08/25

※元ネタ:君の知らない(Supercell)

  

 星を見に行こうなんて誘うから、期待しちまったじゃねえですか。

 スパイクタウンから、ルートナイントンネルを超えた先、ナックルシティへと続く橋。ワイルドエリアを見通せるその上で、彼女は目当ての星を探し出す。

「あ、あれだ! あそこにあるのがデネブ、あっちのがアルタイル、それであれがベガね」

 彼女が指差した夜空の先の『夏の大三角』とやらを見上げる。名前こそ知っているものの、実際の位置まで知らなかった。

「ちなみにね、カントーとかホウエンとかでは、ベガのことを織姫星、アルタイルのことを夏彦星って呼ぶんだよ」

 織姫と彦星。曲作りに使えそうな雑学は見聞きしているから、その伝説も聞いたことはあった。7月7日、七夕。星の逢瀬だから『星合(ほしあい)』とも言うらしい。一夜だけ会うことを許された恋人たち。
 一夜しか許されないことを不憫と思うか、一夜だけでも許されたことを幸福だと思うか。
「詳しいですね」
 視線を彼女に戻すと、彼女は細められていても煌めきを失わない無垢な瞳をわれに向けた。
「んふふ、あの人が教えてくれたの。ほら、向こうの出身だからさ、なんか僕たちみたいだね~ってさ」
 照れ臭そうに、でも楽しそうに笑う彼女に、おれは何か言うことも直視することも出来なくて、思わず目を逸らす。
 どんなに彼女の近くにいても、どんなに彼女の君の知らない物語隣りを望んでいても、真実はどこまでも残酷だ。
 興味がないようなふりして強がるおれは本当にダメなやつで、全身を刺されているような胸の痛みを必死に隠す。
 分かっていたはずなんだ。彼女を目で追いかけ始めた時から決まっていたことだから。
 言いたくても言う勇気が無くて、こうして今もずるずると今の良好な関係を続けて。彼女の優しさに甘えている自分が狡くて嫌になる。
 気付いてくれることを期待したって、届きやしないのに。
 それでも、おれの想いを知って欲しいと考えてしまう。きみは驚くでしょうか。今までそんな振る舞いをして来なかったやつが、ですよ。
 もしかしたら、知ってて傷付けないように、変わらず友人として接していたのかもしれませんね。
 それとも、友人としか思っていないから、ずっとそう接してきたのでしょうか。
 どちらにしろ、何も伝えていないどころか、伝える予定もないことについて、彼女がなんて想っている分かる日なんて、この先来るわけが無い。
「それでさ、ネズ」
 無邪気に笑う彼女が、羨ましくて眩しい。
 いつかこの日を遠い想い出に出来るのだろうか。
 いつかこの想いを昇華する日が来るのだろうか。
 そう遠くない日に、きみを笑って送り出せるだろ
うか。
 きみの幸せを、心から願えるだろうか。
 ──ああ。
 『好きになる』ということは、こんなにも──。

​ 

write:2020/07/07

​edit  :2021/12/27

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