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​2020/06/07

※某方の呟きより

​※妹夢主

 幼い頃から「おにいちゃん、だいすき」とはにかむ、すぐ下の妹のことを直視出来なかった。いつから想うようになったか憶えていない。気付けば実の妹に向けるべきではない感情を、おれはいつも持て余していた。人を疑うことをしないその天真爛漫が、時に憎く想う。しかし彼女は露知らず、純粋におれを『兄』として今も清々しいほど無垢に慕ってくれていた。そんな恋しい彼女をまじまじと眺められる唯一の時間が、ベッド以外で寝落ちた瞬間だ。どんな場所でも眠れる彼女は、今日もテレビ前のソファーに寝転がって穏やかに眠っている。行儀悪く投げ出された、ショートパンツから伸びる健康的な素足。無意識のうちに生唾を飲み込んでしまうほど魅入ってしまった。家族とは言え異性なのだから、少しくらい危機感持って欲しい。

「こんなところで寝ると風邪引きますよ」

 適当に声をかけるが、微睡みの深くまで行ってしまった彼女には届くことはなく、再度名前を呼んでも「むにゃ、」としか答えてくれなかった。だから、これ見よがしに彼女の顔を眺める。丁寧に縁取られた睫毛は目元に幽かな影を落とすほど長く、やわらかく膨らむ頬は熟す前のモモンの実を思い出させた。散らばっている艶やかな髪の毛のひと房が、心持ち重たそうに水気を含んで赤みを帯びている唇に引っかかっていて、そのコントラストに思わず目が眩む。本当に兄妹なのか疑いたくなるほど、肉感的に見えてしまうほど、おれと彼女は似ていなかった。しかし、閉じられた瞼が開けば、そこにはおれと下の妹と同じ白緑の瞳が住んでいる。それだけがおれを引き留め、『兄』としての一線を置かせた。普段の賑やかさから一転して静かに眠る彼女は、さながら王子のキスを待っている眠り姫のように想える。妹でなく他人だったら、なんて何度考えただろうか。抱え込んでいる劣情を、何度妄想の中の彼女で発散させていただろうか。そんなこと考えていたことを自戒してしまいたいほど、目の前でたおやかに眠る彼女はうつくしかった。そこにガラスの柩があるように感じて、容易に触れることすらはばかられる。血の繋がりがこんなにも鬱陶しいとは。だが、この繋がりがなければおれと彼女は出会うことすら無かったのかもしれないと思うと、少しだけ尊い。兄妹なのだから、軽いスキンシップくらい許されるはずなのに。兄妹なのだから、その柔らかさを知っていてもおかしく無いはずなのに。兄妹なのだから、誰も知らぬ痴態を暴いてしまっても良いはずなのに。行き着く先が欲に塗れている自分が本当に卑しい。けれどもし、彼女の赦しを得られるならば。実の兄であるこのおれに、おまえを穢させてください。

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write:2020/08/25

​edit  :2021/12/24

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