top of page

​2020/06/03

※ネズ→夢主→誰か

​※夢主の自殺未遂描写あり 

ゆらり。ぐらり。目の前の橙色が揺れた。暖かな色をしているのに氷のように冷たいそれは、わたしを慈しむように包んでくれる。次第に瞼が重くなって、裏側に追い求めていた背中が見えた時、喉が焼けるような熱い感覚がわたしを呼び醒ました。開いた目が最初に写したものは、白と黒。細く鋭利なそれが髪の毛だと分かった瞬間、先が目に入って身体が微動した。そのわずかな震えに、白黒の髪の毛が上に離れていった。同時に塞がれていたらしい口が解放された時、途端に吐き気がせり上がって来てわたしは思い切り暖せる。吐き出された塩辛さと、じっとりと肌に張り付く衣類と、冷気に大きく身震いし始める全身に、先ほどわたしは入水自殺を決行したことを思い出す。「ッ、おま、え、」息切れしている声が、嘔吐き続けて動けないわたしの胸ぐらを掴み、力の入らない上体を起こす。頭に酸素が足りなくて未だに視界の焦点が合わないわたしは、何故入水自殺を決行したのか、何故わたしと同じようにびしょ濡れの白黒頭──ネズがここに居るのかすぐ思い出せなかった。ふと聞き覚えのある鳴き声に耳を傾けると、ネズの後ろに控えているオレンジ色のシャンデラが心配そうに揺れているのに気付く。「またバレちゃったか」と思ったけど、それは声に出ていたみたいで、ネズがわたしを強く睨んだ。「っ!」睨んで、逸らす。そして何も言わず、胸ぐらを掴んでいた手から力を抜き、わたしを自身の胸元に寄せた。ネズの方が少しばかり体温が高いのか温かくて、わたしは何だか嫌だった。わたしがこの奇行に走る理由を、ネズは知っている。シャンデラに魂を燃やされたわたしはもう幾許もないというのに、ネズは絶えずわたしに息を吹き込む。不毛な繰り返しを、ネズはわたしに施している。お互いに馬鹿馬鹿しくて、目に当てられないど痛々しい。やはりわたしが早く死ななければならないのだと、改めて再確認して、死にたくなった。死に損ないほど、惨めで悲しいものはないんだよ。ねえ、ネズ。

​ 

write:2020/06/03

​edit  :2021/12/28

bottom of page