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​2020/05/26

※診断メーカーより

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 おれは作曲に入ると寝食を忘れて没頭してしまう癖がある。唐突に思い浮かぶから仕方ない。だから、3日前の連絡に気が付いたは、心配になった彼女が家に押し掛けてきた今日だった。


「ばーかばーか、ネズのばーか」
「すみませんって」


 先ほどまで泣きそうな顔をしていた彼女は、今フワンテのように頬を膨らませている。今回に限らず、こんなことは間々あった。

 マリィが家に居ればきっと無事を彼女に伝えてくれただろう(それはそれでまた別で怒られそうでもある)。だが生憎今は新チャンピオンにお呼び出しを掛けられて、ここ数日家を空けている。
彼女と一緒になってからまだ長くは無いとはいえ、それなりに経っていることですし、そろそろおれの癖が分かって来るでしょうに。けれど、おれが連絡を怠ったわけだから、要らぬ心配をさせてしまった彼女に詫びる。


「……ふーんだ」


 しかし不機嫌な彼女がそれを素直に受け取ることはなく、顔を背けられた。
 その時、つん、と尖らせている唇の輪郭が際立ち、その柔らかそうなピンク色に目が惹かれる。子供っぽい仕草とは二律背反する大人っぽい艶やかなそれに、ご無沙汰だった欲が頭をもたげた瞬間、思わず彼女の頬に手を添えて自分のものと重ね合わせていた。リップクリームが塗られているのか湿り気を帯びていて、果実の甘い香りが鼻腔を操る。

 ただ触れるだけの軽いものでも、スキンシップに慣れていない彼女は目を見開き固まった。初心な様子が可愛くて、離れる時に少し吸い付いてリップ音を響かせてみる。


「……これで、許してもらえませんかね」


 そう囁いて許しを乞えば、彼女には効果抜群のようで、みるみるうちに真っ赤になっていった。はは、あいらしかね。
 

「も、もう! ネズのばか! ほんとに心配したんだからね!」
「はいはい」
「何度言わせれば……って、ちょ、なに?」

 まだ少し不機嫌な彼女には、どうやら迎賓が足りないらしい。ならば、と彼女を反転させて自室へと背中を押す。3日3晩引きこもっていた成果でも見せびらかしてやりましょう。

 なんたって、きみのために作っていたんですからね。

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write:2020/05/26

​edit  :2021/12/30

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