生きづらい。
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2020/05/22
※DV表現あり
※ほんのりと注意
彼女のような、草ポケモンだけでなく植物を育てるのが上手い人は、緑の手と呼ぶらしい。もっとも、彼女はどちらかというと自然宗教の気が強いらしいが。そういうことに疎いおれはよく知らない。
「農家っていうより、家庭菜園に近いんだけどさ、家系が代々ターフタウンで豊作を祈る司祭とか呪い師とかだったらしいんだ。それでわたしは、少しでも家の役立てればと思って有機化学を勉強したんだよ」
彼女の愛情を浴びて育った薬草を焙じて作った紅茶に口をつける。砂糖を入れてないにも関わらずほのかに甘いその紅茶は、不思議とおれの舌に合った。
「司祭だの呪い師だのって言っても、ご先祖さまから受け継いだ自然由来の知恵を持った、言わば薬師みたいなものだけどね」
彼女の家のテラスに掛かるグリーンカーテンの日陰。ガーデンテーブルの向かいに座る彼女は、包むように持っているカップの水面を見ながら、縁を親指で撫でていた。
「毎日、掘りやすくするために土を耕したり、植物に水を与えたり。効率的に処理する方法を見出して、虫が湧いたらポケモンに手伝ってもらって。さすがに、あそこで育てたものを口にはしないけど」
庭の中でも鬱蒼と生い茂る場所。その中でアンテリナムという花が咲き誇るところに、おれと彼女の“秘密”が埋まっている。元々は彼女の発案だった。おれはどうする間もなく流されてしまっただけ。とはいえ発案以前に、発端はおれだから、被害者とも言い難い。
「毒を食べさせたのも、それを解毒したのも、幻覚を吹き込んだのも、全部わたし。だから、ネズくんは何もわるくないからね」
あれから1週間経った。心配する者など居ない人物は、忽然と消えても何の違和感も無いようだ。特に、多方面から恨みを買っている人物ほど。
「あ、でもねネズくん、誰かに話しちゃったらだめだから。わたしたちの内緒だよ?」
「……分かってますよ」
考えていたアプローチではないけれど、望んでいた関係性にまで持ち込めたのなら、結果オーライだろう。「それでネズくん、今日はどうする?」
感情のない人形のようだった彼女に、笑顔を取り戻すことも出来た。
「もちろん、いつも通りですよ。──そろそろベッド行きますか」
おれたちは、この緑に覆われた箱庭で今日も一つに溶け合う。
||*||:||*||:||*||:||*||:||*||
ネズくんとの出会いは、わたしが全裸で家から締め出されてしまって、庭の垣根の影に隠れて旦那の怒りが収まるのを待っていた時だった。
自分の生家と言っても、わたしの両親はもういない。旦那とは両親が決めた見合い婚だった。古い考えの両親に、わたしは逆らうことが出来ず、土地も家も名義が旦那のものなった。そうしてほとんど実権を握った旦那は高圧的になっていき、逃げられる場所のないわたしはそれに為す術がなかった。近所の人たちも怯えて関わって来ない。わたしは孤立していた。
だから、ネズくんが他所の街の人だと言うことはすぐ分かった。
「だい、じょうぶですか。とりあえずこの上着を羽織っていてください」
労りの言葉や、自分の上着を貸してくれる気遣い、わたしに触れるか触れないか悩む冷たい手。やさしさ全てが嬉しかった。
とはいえ、旦那に知られたらどうなるか。わたしに優しくしてくれたネズくんだけは、出来れば巻き込みたくなかった。旦那に気付かれる前に離れるよう、時にはキツい言い方をしてまで何度も拒絶したのに、ネズくんんは何度もこの地に足を運び、わたしの様子を見に来てくれる。
「この薔薇、すごいですね。こんな大輪初めてみました。こっちも綺麗です、なんていう花なんですか?」
何より、仕事かつ唯一の癒しである園芸を、綺麗だと褒めてくれた。普段“女性として”ばかり虐められているからだろう。人間として接してくれるネズくんには、自然と心が開けた。
そうしていくうちに、ジムリーダーだとかシンガーソングライターとか、ネズくんを知れば知るほど惹かれていく。心変わりするわたしを、旦那が分からないわけがなかった。
旦那の命令に逆らえないわたしはネズくんを家の中へ呼んで、そこで自分で作った薬でイキ狂うはしたない痴態を曝されてしまった。
虚ろな快楽の片隅で立ちすくむ青い顔のネズくんと目が合う。その鋭い眼光はわたしを恨んでいるものだと疑わなかった。
おそらく旦那は、ネズくんがもっと取り乱すと思っていたのだろう。ネズくんから思っていたような反応をしなかったことで、わたしはすぐ飽きられたようで、思いの外はやく投げ捨てられた。
「すみません。おれのせいですよね。あなたの忠告を守らなかった、おれが……」
ネズくんはそう謝罪して上着をかけてくれた。わたしが巻き込んでしまったというのに、嫌われてもおかしくない状況だというのに、先ほどまで厭らしく悦んでいたというのに。ネズくんはわたしを抱き竦めて受け容れてくれる。ほんとうに、嬉しかった。
気が付けば、どうにかして旦那に一矢報いたいと考えるようになっていた。きっと司祭としても呪い師としても薬師としても、わたしの行いは裁かれるだろう。それでもわたしは。
またネズくんを家に呼ばせられるタイミングに合わせて、旦那にエンジェルトランペットを盛った。性格上、次はきっとわたしたちを情交に及ばせるだろう。首に首輪とリードをかけられたわたしを前にして、ネズくんは仕方なく抱いてくれた。やかましい野次に脅されて避妊もせず挿れることだって本当は嫌だったはずなのに、わたしだけに集中してくれて、もしかしたら初めて愛を分かったかもしれない。
わたしたちが満足するまでまぐわっていると、旦那は泡を吹いて倒れていた。当然だ、エンジェルトランペットには、強力な毒がどの部位にもあるのだから。
それからわたしたちは、旦那を耕して土を柔らかくしておいた庭の隅に埋めた。別場所でこの時のために育てていたアンテリナムを植えながら、わたしは今までのあらましをネズくんに話す。
「そうですか」
ネズくんはそれ以上は何も言わなかった。
これでネズくんとの関係も終わると思っていたけれど、依然ここへ訪れてくれる。抱いて帰るだけの逢瀬だけど、旦那の時より愛に溢れていると強く感じる。
農薬の要らない実りは、心地良かった。
相利共生
write:2020/05/22
edit :2021/12/30