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​2020/05/14

※元ネタ:僕だけがいない街

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 また、今日も悪夢を見た。

 いや、それは現実だったかもしれない。

 けれど、もう起こり得ない世界線へと、おれが遠退かせた。その別れの結末を、今彼女と笑って乗り越えられることが出来た。

 しかし、これで落着とは言えない。また新たな可能性が、彼女を殺しに来るのだ。それをまた阻止しなければならない。

 ひとつの死の運命から逃れたとしても、別の死の運命がやってくる。何度も、繰り返し。彼女の惨い結末を、回避するため走り回る。

 いつからかおれは彼女が死の度に、記憶を持ったまま過去に遡っていた。最初は何が何だか分からなかったが、トリガーである彼女の死を迎えた瞬間に、その発端が訪れる時期の手前まで時が逆戻った。それはまるで“彼女を救え”と誰かに操作されているように。

 彼女はいつも死に晒されて居た。どんなに警戒していたとしても、一度は死んでしまう。いっそのこと外に出さなければいいと思ったが、過去の世界線で匿って閉じ込めた彼女が、結果的におれの不注意で死んでしまったことがある。それを見たおれは気違えそうだったから、もうやらないことを決めた。

 そうして何度も彼女を救えて来れたのは、おれを見て安心するように笑う彼女が、おれを信じて手を差し伸べてくれるから。

 その笑顔をその手を喪いたくないと想いつつ、延々と続くリバイバルのようなこの現象はいつ終わるのかと、身も心も憔悴していた。戻るとはいえ、緊張感を張り詰めさせ続けることは難しい。無意識に解いてしまった時に彼女は、まるで摘み取られるように容易く、呆気なく死んでしまう。

 なら、先におれが彼女を手折るのはどうだろう。まだ試したことがなかった。先におれの手で終わせられるのなら、彼女の運命をおれが管理することが出来る。どのみち時が戻るのなら、おれが殺しても変わらないはず。以前にも不注意で死なせている。彼女の神になれる気分は、気味が悪いほど清々しい。

 だから、巻き込まれる寸前、彼女の頸動脈に刃物を突き刺すことに、何の迷いもなかった。戸惑いに揺れる瞳に、苦しそうな嗅れた声、そして喀血。

 大丈夫! 次ではこんな結末、避けてあげますからね。

 しかし、リバイバルは起こらなかった。彼女は完全に死に絶えた。

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write:2020/05/14

​edit  :2022/01/05

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