生きづらい。
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2020/05/05
ポケモンバトルなのだから、火の粉や電撃があるのは当たり前だし、それがダイマックスバトルなら、その大きさが倍以上になるのも仕方ない。
かつ、公式戦ならトレーナーが近くに居るのは当然だし、バトルの余波が飛んで来てもおかしくない。
だとしても、チャンピオン戦でキョダイマックスしたリザードンの、キョダイゴクエンの炎が彼女の身体に降り掛かったのは、さすがのおれも血が逆流するかのような戦慄が全身を刺してくるほどの、何とも表現し難い気持ち悪い感覚に陥った。
無論バトルは中断。大怪我を負った彼女はすぐさま医務室に担ぎ込まれ、そのまま病院へ運ばれた。幸い命に別条はないものの、咄嗟に顔を庇おうとした腕や、熱風を吸い込んでしまった肺を火傷した。特に、庇いきれなかった顔の火傷が酷いらしく、顔の皮膚は繊細であるためか、治癒しても痕が残る可能性が高いという診断だった。
「まあ、仕方ないよね。真剣勝負だったし」
なんてあっけらかんとしている彼女に少し腹は立ったが、本当に無事で良かったと涙で視界が歪むほど安堵した。
しばらく入院して、皮膚がある程度回復するまで治療していくらしい。巻かれた白い包帯に、消毒液か膿かで滲んでいるのが見え、息が詰まったかのように胸が痛んだ。水はおろか、空気でも痛みを感じてしまうらしい。そう聞いたら、今の彼女に触れることすら躊躇ってしまう。
「それより、ダンデが心配。責任感じてなければいいけど……」
彼女が大怪我している自分のことよりも気にかけていたのは、当時バトルをしていた相手だった。
話を聞くと、あのチャンピオン様は毎日病院内を彷徨いながら、足しげく見舞いに来ているらしい。サイドテーブルの花瓶に生けられた花は、やつが持ってきたものだとか。おれも花だったら、危うく花瓶がなくて無駄になっていたところだ。彼女の所望通りリンゴにして正解だったと思う。
やつも一応“男”なんだなと再確認した。バトルに事故は付きものとは言え、女性の顔に一生モノの傷を負わせたとなると、じっとしてはいられないのだろう。気持ちは分からなくもないが、やはり自分の女に虫が集るのはあまりいい気分にはならない。
「大丈夫だよ。ダンデに限ってそんなこと無いって」
彼女はそう言いながら、おれが皮を剥いたリンゴを景気のいい音を立てて咀嚼する。
「全く、ノーテンキな奴ですね。少しは危機感を持って欲しいんですけど」
おれを気遣って関係を公表していないとはいえ、彼女はおれにとって大切な人であり、かけがえのない存在。
「もっと自分を大切になさい。おまえひとりの身体ではないんだからね」
「は、恥ずかしいセリフ禁止!」
「どこがだよ。おれは恥ずかしくも痛くもねぇです」
彼女には、これくらい真っ直ぐに言葉を掛けないと通じない。マイペースな彼女を唯一乱すことが出来ることに、少しだけ心が満たされる。
滅多に表情を変えない彼女の、貴重な照れ顔。おれだけしか知らない顔だと思うと、自然と口角が上がる。
「あっ、こらっ笑うな! んむっ」
吼える口に剥いてやったリンゴを突っ込めば、シャクシャクとホシガリスがリンゴをかじっているような、小刻みで元気な音をまた立てるものだから、おれはおかしくて笑った。
こうして彼女と笑って過ごせる時間をまた過ごせて、本当に良かったと思う。
彼女は昔っからお人好しで、どんな時も自分より他人で、困っている人がいたら放っておけなくて、だから何でも首を突っ込んで。おれはそんな天性のお節介に巻き込まれて、関わっているうちに好きになっていたんだっけ。そしたら彼女も、おれのことを好きだって言ってくれて。
妹のマリィにさえも教えていない、誰も気付かない内密な関係でも、彼女が変わらず彼女らしく振舞ってくれれば、おれはそれで良かった。いつか妹や街のみんなにも紹介出来たらと、そう遠くない未来が来ることを楽しみに願っていた。
治療は順調に進み、火傷痕が酷くなることは無かったが、さすがに完全には消えなかった。彼女の顔に残った、わずかに色の違う皮膚。きっと事情を知らない人が見たら驚いてしまうだろう。
だが。
「やっと取れたー! 目元が遮られてて見えなかったんだよねえ」
もう包帯が不要になったからか、彼女は火傷痕についてさほど気にしていなかった。彼女が大丈夫そうなら、おれも気にしない。時には気にしないことが、彼女のためにもなるからだ。
だから、気にすることが出来なかった。一番、酷く、気にしていた人物のことを。
その日は久々のオフだったから、彼女のお見舞いに行こうと考えていた。
花はどうせやつが持って行っているだろうから、今回もまたリンゴを買ってやろう。
そんなふうに予定をざっくりと思案しながら、面会時間開始に間に合うように準備をしていた時だった。
『彼女はオレが責任を取ります』
それは、堂々とした聞き覚えのある声で、おれは思わずテレビに視線をやる。
想像通りの人物に向けて、フラッシュが煌々と光る。照らされるその顔は、何か決意を固めたような、強張った表情をしていた。
場所は、彼女が入院している病院の入り口だろうか。何度も出入りしている場所だが、マスコミがごった返しているからか、何だか別の場所にも見えてくる。LIVEと書かれた文字に、そこは現在の状況だと教えてくれた。
あの中心に行くのは少し気が引ける。時間をずらそうか。正直人と鉢合わせたくない。
『責任、とは具体的に?』
アナウンサーが傾けたマイクに、中心の人物はそれに向かって真っ直ぐに答える。おれはそれを、横目に見つつ聞き流そうとした。
『彼女と、結婚しようと思います』
いつだったか、血が逆流するかのような戦慄が、全身を刺す気持ち悪い感覚が、またおれを襲って来た。画面の向こうがざわめいている。うるせぇな。おかけでよく聞こえなかったじゃねーか。
なあ、おい、ダンデ。今おまえなんつったんだ?
write:2020/05/05
edit :2021/12/13