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​2020/05/02

※エアスケブ

 ​

「ねっねねネズさんっ」

 出待ちに貼り付けた笑顔で通り過ぎながら適当にあしらっていると、聞き慣れた声に思わず振り向いてしまった。そこには、ラッピングされたかのようなロリータが突っ立っていた。いつもの装飾過多でじゃらじゃらうるさい音がする服に、重いバンクで見えない目元。しかし中身は相変わらずで、今日も緊張でどもりが酷い。

「あっあああのこれ、」

「……はぁ」

 その風体に似合わない謙虚な姿勢から手渡される手紙。また今回も、A4の紙一枚分におれへの想いの丈を綴って来たのだろう。本当に懲りないやつ。

 だからおれは、その場でビリビリに破き始める。彼女以外の背景が騒然としていて、紙が割かれていく高音が響き渡っていく。

「あっ、」

 なるべく細かく、復元も出来ないよう、無惨に、非情に。
「どうも」

 紙吹雪のようにそいつ目掛けて散らしてやれば、そいつは嬉しそうにニッタリと笑った。

「アッアッありが、とうございます……っ」

 周りがざわめき始めた時に、おれはそいつから距離を取る。まさしく異常性癖、頭がおかし過ぎる。それでもこれが彼女の望んでいる“ファンサービス”なので、おれは可能な限り応えてやらねばならない。

 汗で手のひらに残った残骸をそいつに向けて雑に吹くと、重いバンクかひらりと舞い、隠れていた目元が晒された。そこには、吸い込まれそうな濡れた銀河が輝いていて、おれを一心不乱に見詰めている。

「、あっ」

 一瞬クリアになった視界に驚く、彼女の目が見開いたのが見えた時、ああ…余計なことしたな…と我に返る。

 もう興味など無いように背を向けて、また貼り付けた笑顔で、何事も無かったように周囲へ振る舞う。すると、後ろで誰かが頼れる衣擦れの音が聴こえた。誰か、なんて分かりきっていることだけど。
「あっ、アアッ、はあ♡」

 悦に入っているその声に、おれはニヤつく口元を片手で抑えた。おれもある意味病気だろうか。あいつに、感染されたんだろうか。

 まったく、こんなことに付き合わされる彼氏の身にもなりやがれ。このクソアマ。

 

write:2020/05/02

​edit  :2021/12/12

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