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​2020/04/24

※夢遺書

​ 

拝啓。おれの愛しい人へ。

 

 きみがこれを読んでいる頃、おれはこの世に居ないでしょう。……なんて書いたら、きみは悲しんでくれますかね。きっと涙ひとつたりとも零さないと思いますよ。きみは薄情なヤツだからね。でも、葬列はしてくれたんじゃないですか? そんな変に律儀なところが可愛くて好きだったよ。

 ええ、本当に、好きでした。自分が自分じゃなくなるほど、頭がおかしくなるほど。だから、一応分かってはいたんです。きみがおれのこと好きじゃないことくらい。

 視線はいつも違うやつに向けられていて、おれには一瞥もくれやがらない。悔しかった、おれはこんなにもきみを愛しているというのに。苦しくて、嫉妬でどうにかなりそうだったよ。

 だから、考えたんです。どうしたら振り向かせられるのか。おれだけを求めて狂ってくれるのか。そしてひとつ思い付きました。きみを諦めるふりをして、きみの大切なものを全て壊してしまえばいいんだと。

 きみには大切なものが多過ぎる。家族が大切、ポケモンが大切、故郷が大切。分かるよ。おれだって、家族もポケモンも故郷も大切だったから。けれど、きみの場合は、ちょっと多かったんですよね。それも、おれが入る余地が無いくらい。

 だからおれは、きみの大切なものをひとつひとつ丁寧に、念入りに、執念深く、壊していきました。きみにはさぞかし不思議だったろうね。家族が、友人が、恋人が、きみから離れていくんだから。

 混乱したきみは、唯一離れていかないおれにすがり付いてくれましたね。抱きすくめてやりたかったよ。でも、受け入れてたら今までの努力が無駄になってしまうから、おれは何とか我慢して受け入れてやらない。厳しく手を振り払えば、どうでしょう! きみの絶望したその顔は本当に可愛らしくて、思わず歓喜に打ち震えてしまいました。

 涙で濡れたほの暗い瞳が、まるで闇の中でも光り輝くダイヤモンドのようでとても綺麗でしたね。唇を噛み締めて喘ぐ声を抑える健気さも良かったですよ。おれのせいでそんな顔をさせていると思うと、なんて言うんだろうね、普段猫背な背が伸びてしまいそうなほどゾクゾクしました。

 周りに誰も居ないおまえは、ひとりぼっちで可哀想な様子。誰かが手を差し伸べれば、ホイホイついて行ってしまうんでしょうね。まあ、おれが全部消しちまったから、そんなやつ誰も無いんですけど。

 そして、締めはおれ。きみの目の前で、見事に最後を飾れました。嬉しかったですよ。最後を愛しい人に看取ってもらえたことは。おれにとって最高の誇りです。ひとつ心残りだとすれば、おれの死に様を見たきみの顔が見れないことですかね。ああ、悲鳴はよく聴こえたよ。聞き入ってしまうほど、素敵な音楽でした。

 それでは、あの世で会いましょう。きみがおれを追って来てくれることを、心待ちにしているよ。

 

敬具。

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write:2020/04/24

​edit  :2022/01/05

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