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​2020/04/15

※彼岸ネタ

​ 

 気付けば、わたしは死に装束を纏って川辺に立って居た。

 足元は裸足で、砂利だらけを踏んでいるのに痛くない。目の前には、静かに流れる大きな川。向こう岸が見えないほど広くて、どんよりと曇った空を鏡のように映している。何故かここに留まっていてはいけない気がして、周りを見渡すけど、橋らしきものなんて無い。ただ葉のない赤い花が点々と咲いているだけの、だだっ広い川辺を一人で佇んでいた。

 ……橋がないなら、泳いで渡って行けばいいか。

 そう思い付くのに時間はかからなかった。深いかもしれない、流れが速いかもしれない、それなのにわたしはお構い無しに川に足を入れる。温かくも冷たくもなかったけど、水が濁っているのか、川底が全く見えなかった。それでも私は進んだ。ここに居ちゃいけない気がしたから。

 行かなきゃ、行かなきゃ、逃げなきゃ。

 腰まで川に入った時、後ろから腕を掴まれる。それは、ここまでずっと体感温度が無かったわたしに、初めて冷たさを感じさせた。

 氷のように冷たい手に振り向くと、そこには、あいつが、いた。

「何処行くんですか」

 ひゅ、と息が止まった。全身が緊張で硬直して、悪寒に震え出す。

「おまえはまだ、こっち側ですよ」

「や、だっ」

 拒否してもそれを決して許さないような物凄い力強さで、先程まで居た川岸の方へと連れ戻される。どんなに腕を振っても解けない。足で踏ん張ろうとするけど、川底がみかるんでいて上手くいかない。ずるずると引き摺られていくうちに足元の水かさが減っていく。向こう岸が離れていく。視界が少しずつ白けていく。

「行かせるものかよ」

 その声を最後に、現実のわたしは目を覚ました。白い部屋、白いシーツ、白い包帯、白いわたし、黒い人。

「ああ、やっと目を醒ましましたね」

 ──この世は、悪夢そのものだ。

​ 

Riverside Nightmare

write:2020/04/15

​edit  :2021/12/08

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