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​2020/04/07

※お金を払ってネズを買う

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 彼女がおれとの時間に手渡す対価。それは、彼女が汗水垂らして手に入れた金銭。「わたしにはこれしかないから」そう言われて握らされる紙幣と硬貨をおれは何度も断った。別に困っている訳ではない。このために体を重ねている訳でもない。それでも彼女は「受け取って、おねがい」と押し付けるから、押しに弱いおれは仕方なく受け取ってしまう。まるで、一線を引かれているようで、虚しかった。おれの想いを査定されているようで、悔しかった。……かすがいになるものでも打ち込めば、彼女を引き留められるだろうか。そんな考えを過ぎらせる自分が嫌になる。だってそれは、彼女の意思を蔑ろにしているからだ。そんなおれだったら、どんな言葉を並べても信じてもらえないだろう。彼女がおれから離れて行ってしまうことだけは避けたかった。だから、彼女の金を受け容れるしかない。彼女に買われてやるしかない。このはした金が、彼女が考えるおれとの時間の値段だとしても、いつ途切れてもおかしくない繋がりの価値だとしても、何だって構わない。このつまらない取引が、儚い因縁が、これからも続けられるのなら、おれは──

 

write:2020/04/07

​edit  :2022/01/11

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