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​2020/04/05

※元ネタ:天稟の淫婦(グルグル映畫館)

「ねえ、ネズくん、ネズくん」

 垢抜けない白のブラウス、それには不釣り合いなキルシュのような甘ったるい彼女の特徴的な声色。

 腕に絡み付く様子はさながらガーディのような無邪気な愛らしさがあるというのに、おれを見上げるその目は言うなればレパルダスのような艶やかな色香を醸し出す。
 庇護欲を掻き立てるような、迫害欲を煽り立てられるような、二律背反する性質。理性を容易く撃ち崩し、男の性を嘗め回す彼女が、出会った時から苦手だった。

「ねえ、ネズくん、ネズくん」
 鼓膜にねっとりと響く甘えたな声色が、真っ暗な視界で身動きの取れないおれの三半規管を狂わせる。
 酒に酔ったような気持ち悪さに吐き気を催して、身体中に電気が走るような気持ち良さに興奮を催した。
 あのたおやかで清らかなつま先が、おれのますらで穢れた劣情を容赦無く扱く。躾がなっていないおれは呆気無く吐き出して、あの陶器のようなきめ細かい肌を白く汚した。
「あァーあ、よごれちゃったよ。ねえ、ネズくん」
 舐めて、と言わんばかりにつま先が口元に触れて来るから、酸欠と出した直後で正常な判断が出来ないおれは躊躇無くしゃぶりつく。
 青臭いそれを好んで舐め取る性癖は持ち合わせていない。気持ち悪さは加速していくものの、足指の間に舌を這わせた時に感じたほのかな汗の甘美に気持ち良さが膨れ上がった。
「ネズくん、」
 ふと離れていくつま先に銀の糸が伝ったようで、その儚く途切れる耽美な感覚に浸った途端、身体を押し倒される。背中には床の硬い感触があり、腹には柔らかく少し湿った感触が乗った。
 彼女が、おれに跨っている。
「ネズくん、」
 ──ああ、そんな切なそうな声を出さないでください。おれが居ます。おれが何でもします。おれが上手くやります。どんなに苦手でも、おれしかおまえを受け止めきれないのなら、おれはおれの出来ることを尽くしましょう。
 だから、お願いですから、ずっとおれと一緒にいてくださいね。
 おまえみたいな性悪女には、おれみたいな悪辣男がお似合いなんですから。

 

write:2020/04/05

​edit  :2022/01/11

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