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​2020/04/03

※ネズ→夢主→シズイ

​※書き手はシズイも好きです

 【職業:海の男】だなんて馬鹿げていると思うのに、それが彼らしさというか、チャームポイントというか、あばたもえくぼというか。

 結局のところ、惚れた弱みだから。彼が彼であれば、わたしは何でも良かったみたいだ。

 元はきっと色白だけど、日に焼けた浅黒い肌は元気さを感じさせられて。水泳で鍛えられた上半身は、海の男と名乗っても納得させられるほど逞しくて。溌剌としたテノールが、どんなに訛りがきつくても聴いていて心地良くて。いつも満開の笑顔が咲いている顔はちょっと子どもっぽくて。

 シズイという名の海の男って感じが、たまらなく大好きだった。

 

「またここにいやがりましたか」

 波の音は、イッシュ地方の穏やかな海と変わらない。しかし目を開くと、そこはガラル地方の烈しい氷河の海。吸い込む空気は肺を凍りつかせるほど、とても冷淡だった。

「そんな薄着だと風邪を引きますでしょう」

 マフラーをぐるぐる巻きにされて、やっとその声の主を見る。寒さで血の気が引いたような真っ白な顔に、薄くて細い身体、落ち着いたテノールと感情が読めない顔に、わたしは無意識に落胆した。それを察したその人は、少しだけ眉を吊り上げ、不機嫌そうにわたしの冷えた腕を引っ張る。

 

「帰りますよ」

 

 わたしは無抵抗ののまま、海から引き離される。連行されながら海を振り返る度に想い出した。大好きな彼は、決してわたしに振り返ること無く、海に飛び込んで行った。この人は、わたしばかり見てくれて、大好きな海から引き離してくれる。

 わたしの大好きとは、いつも真逆だった。

 

write:2020/04/03

​edit  :2021/12/08

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