top of page

​2020/03/14

※元ネタ:恋しき月(Crazy Berry)

  

 熱気がこもった部屋の湿ったシーツの上で、おれたちは気怠い身体を引き寄せ合う。横になっていても、窓から良く見える月が、おれたちを音も無く照らしていた。
 ふと彼女は月を見上げて、ぽつりと詠う。

 

やすらはで ねなましものを さよふけて
かたぶくまでの つきをみしかな

 

「……なんですか? それ」
「んー? ふふ、なんだろうね?」


 あたたかく柔らかい感触と、月華に形取られた影は、確かに目の前に在るというのに、彼女がおれの知らない世界へ消えてしまうかのような感覚に陥る。
 そんなおれを他所に、彼女は続けた。


なげけとて つきやはもの おもはする
かこちかわなる わがなみだかな

 

「嘆け、涙……? 泣きたいんですか?」
「うーん、まあ、意味的にはそんな感じかな」


 どうしてか、彼女が何処かに飛んで行ってしまいそうな恐怖に襲われる。何処にも行かせないよう、抱き寄せる腕を強めたら、彼女は「何処にも行かないよ」と振り向いてけらけら笑った。
 何処にも行かなくていい。おれの隣に居てくれればいい。

 最初はそれだけで良かったのに、おれと言う人間は業突く張りで、例えおれの傍にいたとしても心が月に寄せられているのを知ったら、月に強い嫉妬心を抱いてしまう。
 おれだけを、感じて欲しい。


いまこむと いひしばかりに ながつきの
ありあけのつきを まちいでつるかな


「っ、おれが分からねぇからって、そういう風に遊ばれるのは気に食わねぇんだけど」
「ん、……ふ、うっ」
 顎を掴み顔を引き寄せて、そのまま唇を押し付ける。すると彼女は、待ってましたと言わんばかりに口を軽く開け舐めて誘うから、煽られるまま絡ませた。先ほどまで、おれたちがはしたなく溶け合っていたように、厭らしく水音を立てながら貪る。鼻を通るくぐもった声、無意識にしがみついてくる肢体。酸素が足りない脳が痺れて、激しく心臓が脈打ち、快楽と生命危機で下腹部がまた熱くなるのを感じた。

 どのくらいしていたか分からなくなるくらいに夢中になっていた時、 おれの胸元に置かれていた手が軽く小突く感覚に醒め、離れようとする。その瞬間に、彼女が名残惜しむかのように、甘ったるいリップ音を立てた。

「ネズってさ、嫉妬深いよね」

 なんて今さらなことを言うから、本当におれを煽るのが上手くて困る。お互いにもう息が切れている状態だと言うのに、これからまた息を弾ませようとしているのだから、全くおれたちはどうしようもなかった。

​ 

write:2020/03/14

​edit  :2021/11/04

bottom of page