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2020/01/07

 家族も居ない。友達も居ない。居場所も無い。何も無いわたしに、“生”は要らない。

 べつに良かった。面倒な人に絡まれない。それが良かった。みんなわたしを避けていく。それで良かった。懐いてくれるのはゴーストタイプのポケモンだけ。だから、さっさと死んでしまって、手持ちの子たちに食べられてしまいたかった。

 それなのに。

「どこに行きやがりますか」

 わたしのお腹に絡みついてくる、ヒトの腕。それは、変わった見た目の割には常識人で、歌が上手くてそれなりに有名人のもの。

「どこに行ったってわたしの勝手でしょう」

 そんな人気の彼が、悪名高いわたしを追って来るなんて、はなはだ可笑しい。腕を解こうとするも、しつこく絡んで来る。

「また、死にに行く気ですか」

 絡みつく腕に力が入るのを感じた。

「ポケモンたちを鍛えに行くんです」

「そう言って先日サマヨールに魂を吸い取られそうになったのはどこのどいつでしたかね」

 ああ、うん。そんなことも、ありましたね。あなたのおかげで未遂に終わってしまいましたけど。

「別に、あの時死んでも良かったですよ」

 あなたが助けなければ、わたしは今頃ゴーストポケモンのお腹の中で幸福だったのに。

「わたしが居なくなったって、誰も困りはしませんよ」

 力ずくで絡まる腕を振り切って、ベッドの外へ逃げ果せようとするけれど、既のところで腕を掴まれる。わたしよりも色白くて細くて長くて骨ばったその手は、死んでるみたいな見た目なのに、強い握力に生が垣間見える。

「おれが、困ります」

「セフレが居なくなるから?」

「っ……違いますよ」

 間髪入れずに返せば、一瞬だけ言葉に詰まった。それが答えだと感じたわたしは、腕を振りほどこうとするけれど、逆にベッドへ引き戻された。あの細腕のどこにこんな力があるのか。組み敷いたわたしに、生を説く。

「おれはきみのことが好きです」

「わたしはあなたのこと嫌いですけど」

「それで、いいです。生きていてくれるのなら」

 どうしてこのヒトは、こんなに生にこだわるのか。わたしには理解出来なかった。そうしてまた熱量をあてがわれて、わたしの子宮が欲しがるように疼く。

 生産的な行為は好きじゃないけれど、彼との行為は非生産的な行為だからまだマシ。そして、息が出来ないほどの圧迫感に、死んでしまいそうな感覚を味わせてくれるから、比較的好きだった。死にに行くような激しさが気持ち良い。

 ──このまま死んでしまえたら、少しはあなたを好きになれるかもね。

 

write:2020/01/07

​edit  :2022/01/20

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