生きづらい。
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2020/03/06
キスしやすい身長差12センチメートル。理想のカップルの身長差15センチメートル。抱きしめ合いやすい身長差、20センチメートル。
──とは言うものの、あいにく身長に恵まれたわたしには、恋人との身長差なんてほとんど無かった。別に悲観している訳でも無いけど。でもやっぱり、そういう『差』があると、楽しそうだなって感じる。わたしがもう少し小柄だったら、きっと吊り棚に頭をぶつけることは無いだろうし、袖や裾が足りないなんてことも無かっただろう。今みたいな、狭い湯船で脚を伸ばせて、冷たい膝裏を温めることだって。……いや、ちがう。湯船が狭いのは二人で入ってるからだ。多分一人ならギリギリ脚を伸ばせる、はず。
「ねえネズ、二人でお風呂に入る意味ってある?」
「ありますよ、スキンシップってやつです」
「うーん、わたしの知ってるスキンシップと違う気がする」
「まあ、家庭によって感覚はそれぞれでしょう。おれの家は結構普通のことでしたよ」
自分の脚の間にわたしを座らせ、わたしの背中にもたれかかりながら、肩に顎を乗せたネズの頭は地味に重かった。きっと湯船のお湯に浸からないよう、まとめ結われた長い髪の毛のせいだろう。水分の分だけ質量が増えているに違いない。それでも邪険に出来ないのは惚れた弱みゆえ。背中から伝わる心臓の鼓動が、耳元で聞こえる浅い呼吸が、わたしをじわじわと弱らせる。だからこそ、考えてしまった。もし、ここに座る女の子が、もっと小柄でか弱い子だったら。きっと脚は伸ばせるし、膝同士だってぶつからない。何より『差』が出来るのだろうな。絶対素敵な絵になるだ。ああ、なんて、羨ましい。
「ひ、ゃ!? ちょ、ちょっと!」
「ッくく、すみませんねぇ」
前で組まれていたはずのネズの手が、わたしのお腹をすべった。突然のことにわたしの身体はビクリと震え、思わず変な声が出てしまった。それに対してネズは、喉の奥で押し殺すように笑う。そのクツクツと低い音が、耳元に響いて、背中に伝わって、心臓が高鳴っていく。ただ笑われているだけなのに、どうしてこうも扇情的に感じるのか。
「また考えていたでしょう。もっと小柄だったらって」
折り曲げた膝の上に置いていた両手が、ネズの両手に掬われる。されるがままに指を絡ませて、強く握られた。ネズの骨張った手は硬い。その硬さがわたしは大好きで、心地良かった。
「小柄なおまえなんて想像できねぇし、そもそもそんなのはおれからしたら“おまえ”じゃねぇんですよ」
プールでも泳いでいるようなゆったりとした声が、バスルームに優しく反響する。
「気にしてるのも可愛いと思いますがね。でもおれが見込んだ女なんですから、もっと胸を張りなさい」
何でも分かってくれて嬉しくて、全て見透かされていて恥ずかしい。
「……なら、ネズも猫背治そうね、おじいちゃんになったら背中曲がっちゃうよ」
「へえ、熱烈な告白だね。老いぼれても見捨てないでくれるなんて」
「ちがっ、わないけど! そうじゃなくて!」
「ッくく」
苦し紛れの照れ隠しもあっさり暴かれて、またクツクツと笑われてしまった。悔しいはずなのに、楽しそうなネズを感じると、何でも許したくなってしまう。間違いなく、惚れた弱み。
「まあ、努力はしますよ」
「じゃあ今度猫背になってたら、肩甲骨をこう、グイって寄せてあげるね」
「……お手柔らかにね」
どんなに『差』が無くても、どんなに二人で入る湯船が狭くても。ネズにとっては、この“わたし”が良いんだと思えた。
だって、こんなわたしを可愛いって言ってくれるネズが傍に居てくれるから。あなたの言葉が包み込んでくれるから、わたしはわたしを素直に愛することが出来た。
write:2020/03/06
edit :2021/09/27