top of page

​2020/02/06

※元ネタ:ワインレッドの心(安全地帯)​​

 例えば、おまえを抱いた数多の有象無象なんて忘れて、おれにだけ恋をしていれば良いと思う。誰かとの想い出だという葡萄酒を飲む度に泣くことが、おれにはどうしても時間の無駄としか考えられなかった。だからといって、そう簡単に言うことを聞くおまえではないことは知っている。

 侵犯した咥内は、先程までおまえが飲んでいた葡萄酒の味がして、おれはそれを貪るように呷る。どんなに抱き合っていても、繋がっていても、おまえは一向におれを見てはくれなかった。仕方ないから今こうして、おまえに欲望を当たり散らしているのかもしれない。

 逃げる腰を掴んで、最奥部を何度も穿てば、おまえはおれの背に手を回して、しがみつきながら噎び泣いた。押し潰している先を、懐胎させても良かったかもしれない。そうすれば、既成事実がおれたちを繋ぎ止めてくれる。おれたちを縛り付けてくれる。それがおまえの意思に反していても、おれは喜んで受け入れてやるのに。

 おまえがずっと縋り抱いている想い出たちを、おれはどうしても捨てさせたかった。おれではダメですか。おれでは足りませんか。おれの何が気に食わねぇんですか。どんなに問うても、おまえは恥ずかしそうに笑って誤魔化すだけだった。それにはいつも虫酸が走った。もう、おれが優位に立てる手が残されていないような気がして。

 一度果てたおまえが、もどかしそうに腰を浮かす。その影響でうねる肉襞に抗って、おまえの腰を掴む手に力を入れた。馬鹿の一つ覚えみたいに必死で腰を打ち付けるおれを、おまえは何故かあの笑顔で眺めている。その弓なりに曲がる瞳に醜い自分が映った瞬間、自分の行いが何もかも厭わしくなって、気をやる直前におまえから引き抜いた。情動を腹の上に撒き散らしたおれの背に、おまえは二度の絶頂に意識を手放した時に、意趣返しの爪を立てる。おまえに新たな傷を作られたおれは、痛みの中に密かな喜びを噛み締めた。

 そうだ、恨め、怨め。どうか、憾んで。おまえを孕ませようとしたおれを、直前で怖気付いて逃げたおれを、嫌厭してくれ。

 そして、涙で濡れて透き通るような、けれど熱を求めて燃えているような。そのワインレッドのような心に、ずっとおれだけを映して、射抜き殺し続けてくださいね。

 

write:2020/02/06

​edit  :2021/09/23

bottom of page