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​2020/02/06

※死ネタ

※元ネタ:栗花落カナヲ(鬼滅の刃)

 何故か漠然と、おれの大切なひとたちは、明日も明後日もこれからも生きていく気がした。ずっとこの日常を過ごしていくのだと思った。何も変わらず世界は回り続けるのだと考えていた。それが絶対たと、そう信じて疑わなかった。

 だから、彼女の訃報を聞いても現実感が湧かず、彼女の居ない日常と、彼女が眠る墓前に立って、ようやく、それがおれの願望でしかなくて、約束されたものではないことが分かった。

 葬式が行われた十日間もの長い間、おれは泣くことどころか何も出来なかった。たた身体中に大量の汗をかき、ぼうっとした頭で粛々と進む式を遠くから見ているだけだった。彼女との最後の立ち会いたと言うのに、おれは彼女の顔すら見れなかった。けれど、誰も責めはしなかった。

 そして、いつの間にか式は終わって、骨だけになった彼女は冷たい土の下に埋められた。

 彼女の墓前は今日も、白百合で溢れていた。彼女の親類や友人が持ってきたものだ。おれは花など持ってきたことが無かった。無意識のうちに毎日ここへ足を運ぶと言うのに、いつも花を買うことを忘れてしまう。

 ほんとダメなやつですよね、と自虐的に笑えば、「そんなネズがネズらしくてわたしは好きだなぁ」と長閑に笑ってくれた彼女。少し前まで当たり前で、有ったはずの日常。遠い記憶のようだった。

 手持ち無沙汰な右手でチョーカーを弄りながら、左手でコートのポケットにしまい込んでいたベルベットの箱に触れる。その肌触りの良い感触に、彼女の遺品から出てきた、お互いの名前が刻印された二つのシルバーリングが脳裏に想起される。

「おれが臆病なばかりに、おまえには苦労ばかりかけましたね」

 そう言えばきっと彼女は「そんなネズがわたしは好きなんだよ」と笑ってくれるだろうか。

「いつになったら、この指環、おれにくれやがるんですか」

 そんな呟きに、墓石の脇に植えられたリンドウが、白百合の中でおれを揶揄うように揺れていた。

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write:2020/02/06

​edit  :2021/09/23

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