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​2020/01/31

誰かを恨めるほど、信じたことがなかった。だから、恋人のネズが他の娘のことをよく気にかけていても、怒りなんて湧かなかった。ただ、傍から見たらわたしは憐れな女だと思われているのかな、なんて自分勝手で的外れなことを考えている。だって、一人で佇むわたしに近寄って来たキバナが煩いから。今日もネズと一緒じゃないんだな、ってわざと逆鱗に触れるようなことを言う。本当にドラゴンタイプの使い手なのか疑いたくなる。正直、わたしに構わないネズよりも構ってくるキバナの方にムカついていた。無視すれば、キバナはさらにわたしの気を引こうとして、あれこれネズと他の娘のことを細かく話してくる。それで気が引ける安い女だと思われていることにも腹が立った。そして何より、そんな話をされてもネズのことを1ミリも恨めないわたし自身が、本当に嫌いだった。わたしにも、キバナみたいに気を引こうとする術があったなら、今日こそネズと一緒居られたのかな。そう想わせるキバナのことは、自分のように恨めしかった。

 

おれを恨んで欲しかった。そうすれば、好きなのはおればかりではないんだと分かるから。けれど、強情な恋人はこちらを振り向きやしないから、腹立たしかった。おまえがその気なら、おれもとことん強情になってやりますよ。少しくらい気にかけてくれれば、おれを想って泣いたり怒ったりしてくれれば、それで良かったはずなのに。キバナが、今日も一緒じゃないんだな、と意味深に嗤った時から、何かねばつくような違和感があった。誰と一緒じゃない、だなんて他の誰にも伝わらなくても、おれには十分に分かる。しかし、強情になってしまったおれには、彼女の気の引き方なんて、とうの昔に忘れてしまった。愛をなんて囁いていただろうか、どんなふうに寄り添っていただろうか。おまえは今でも、おれのことを信じて待っているのでしょうか? それとも、おれだけが、今もおまえのことを想っているんでしょうか? キバナに付きまとわれて感情を剥き出しにしているおまえが、なんて恨めしいことか。

write:2020/01/31~2020/02/01

​edit  :2021/09/02

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