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​2019/12/29

※​元ネタ:ガンスリンガーガール エルザ・デ・シーカ

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 ​彼女からもらったもの。この想いの名前と、少しピンボケしている彼女とおれのツーショットポラロイド。それだけだった。

 一度目の時、彼女は気ままに旅する写真家だった。この寂れた街に来たのも、きっとただの気まぐれ。相棒のポラロイドカメラを片手に、彼女は自分が見た世界を写していた。彼女の中では、おれはモブどころか背景に等しかっただろう。それほどまでに、彼女の世界の登場人物は本当にごくわずかだった。彼女との出会いのシーンが『運命』という名前に変わるのは、そう遠い未来の話ではありませんでした。

 二度目の時、彼女は“記録”と称してカメラレンズをおれに向けてくれた。その時はじめて、おれは彼女の世界の登場人物になれた。おれとのツーショットを強請ってくれたのがただ嬉しかった。2枚撮って、裏に日付と場所、それから表におれのサインを書き込む。自撮りに適したカメラではないから、2枚ともぼんやりとした写りだったものの「これでネズのことは忘れないよ」と彼女は喜んでいた。その顔が、おれの脳裏に焼きついて剥がれませんでした。

 それだけ印象強く、無限に破壊力を増していくような強烈さで、おれの心を致命的までに支配した。

 だから彼女にも、知って欲しかった。きみに憶えていてもらえる、おれの喜びや愛しさを。

 味わって欲しかった。病とはいえ、きみに忘れられていくおれの苦しみと憎しみを。

 揺さぶりたかった。無邪気で無垢なきみの感情を。

 奪いたかった。好奇心のカメラレンズが向いている視界を。

 “今”の彼女がおれに関心があろうとなかろうと、関係ない。同じポラロイドを持っているだけで、“今”のきみの信頼を勝ち取るのは容易いものだった。

 だから、三度目は、きみの命が欲しいんだよね。

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write:2019/12/29

edit  :2020/06/22

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