生きづらい。
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2019/12/26
わたしは、ネズくんのことが苦手だ。
だから先日の「きみのことが好きです」なんて言葉に、心臓が痛くなって、苦しくなって、怖くなって、それからずっとネズくんを避けて来た。見かけては逃げ出し、声を掛けられても逃げ出し、……そう、逃げ出せていた。
つい、さっきまでは。
「意図的に避けられてると、さすがのおれも傷つくんですが」
わたしは今まさに、ネズくんに追い詰められている。スパイクタウンの薄暗くて狭い袋小路。近くにわたしたち以外の人の気配すら感じられないほど入り組んだところにまんまと追い込まれてしまった。後ろは錆が目立つ高いフェンス。横は白い袖の両腕。目の前には、ネズくん。
……逃げられない。背筋に悪寒が走った。
こちらを少し上から真っ直ぐ見据える淡い翡翠の瞳に、心臓がうるさいほど暴れている。痛い。苦しい。怖い。一瞬目を合わせてしまって、ゾワゾワと身が竦んだ。とっさに視線を下に逸らす。
「それとも、きみはおれのこと嫌いですか」
わたしを問い詰める威勢とは打って変わって、なんだか自信なさげになるものだから、思わずちらっと見上げてしまった。わたしを睨んでいる瞳孔が、揺らめいている。ネズくんが悪いわけじゃないのに。ネズくんの気持ちに答えられないわたしのせいなのに。
「そんな! き、きらいとかじゃ、なくて! あ、あのね、」
抱えている想いが上手く言葉にならない。頑張って紡ごうとしても、言葉が端から崩れていってしまった。そんなしどろもどろなわたしの言葉だったけど、ネズくんは静かに見下ろしながら待っていてくれた。その優しさは、少しだけ嬉しかった。
「えっと、その。ネ、ネズくんと居るとね、」
言ってもいいのかな、だいじょうぶかな。ネズくんを怒らせたり、悲しませたりしないかな。どう言えば、ネズくんに伝わるのかな。一度開いた口は止まらない。
「し、心臓! ……が、痛くなっちゃって。苦しくて、よく分かんなくて怖いんだ。あ、でも病気とかじゃなくて。え、っと、ネズくんを見てたり、隣に居たりすると、こう、ギュッて絞められる、みたいな……」
自分でも下手くそだと思う説明に、段々と尻すぼみになった。分かってもらえない、かもしれない。そんな不安に、視線を落とした先の足元が滲む。
ネズくんのことは嫌いじゃない。けれどわたしは、ネズくんの姿を見たり、一緒に居たり、話したりすると、わたしは途端に動悸が激しくなった。心臓が痛くて、苦しくて、死んじゃうんじゃないかと怖くなる。でも離れると落ち着くから、わたし自身にも原因がよく分からない。とりあえずネズくんに近寄らなければいい。そうして仕舞いにはネズくんに苦手意識を持つようになってしまった。
「……そ、れは、自惚れても良いんですかね」
わたしの話から少し沈黙を置いた後に、ネズくんは絞り出すようにそう言った。自惚れられるような要素がどこらへんにあったのかは、わたしには分からない。けれど、ネズくんがそうしたいのなら、わたしにそれを止めようとは思わない。そんなネズくんを縛るような権利なんて、わたしは持ち合わせていない。
「んと、ネズくんがそうしたいの、なら、どうぞ、っ」
そう伝えた瞬間に、わたしの左右にあったネズくんの両腕が、それぞれ肩と腰に添えられて、ネズくんの方へと引き寄せられる。わたしの顔はネズくんの胸元に収められて、それから身体が密着させられた。まるで、今まで開いていた距離を埋めていくかのように。
「ぇ、あ……? ッ!?」
突然のことにわたしの理解が追いつかなくて、自分の耳から自分の音ではない、強い鼓動の音が聴こえて来て、ネズくんに抱き締められたのだとようやく分かった。添えられていた手が今は背中に回っていて、その強い腕の力にわたしの身体が少し悲鳴を上げている。けれど、それよりも、音だけでなく密着する部分から伝わってくる激しい心音に、わたしの心臓も共鳴しているようで、身体中がカッと熱くなってクラクラする。
「──、───」
ネズくんが何か言ったようだったけど、ふたつの動悸の音がうるさくてかき消されてしまった。
ああ、心臓が痛い。息が苦しい。全身が熱い。このまま死んでしまうのかもしれない。怖い。助けて。ねえ、ネズくん。そう想って声を出そうとしたけれど、痙攣した唇からは掠れた息しか出て来なかった。
この締め付けられるような苦痛と恐怖は、いったい何なの?
どうして、ネズくんはわたしのことを好きだっていうのに、こんなに痛めつけて、苦しませて、恐怖に陥れようとするの?
わからない、なんにもわからない。
やっぱりわたしは、ネズくんのことが苦手だ。
write:2019/12/26
edit :2020/06/22