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​2019/12/25

彼女は、恋をしては手酷く振られるばかりの人生を送っている。相手に尽くす健気が報われないその姿を、おれはずっと間近で見てきた。いつも納得いかなかったおれは、一度だけ、酒の勢いで聞いたことがある。それはお互いに酒が飲めるようになった歳のことだ。「おれでは、ダメですか」ただ、異性として、意識されたかっただけ。しかし、同じように酔い潰れそうな彼女は微笑んでこう言った。「ネズがあたしの恋人なんかになったら、誰があたしの惚気と愚痴を聞いてくれるの?」どうやらおれは、舞台袖にも居させてくれないらしい。それからずっと彼女の特別になれないおれは、惚気ける彼女の無様な姿に苦々しい想いを抱きながら、愚痴の捌け口という唯一無二の繋がりに喜びを味わっていた。ずっと傍に居て、彼女の嗜好を散々聞かされて来たおれなら、決して悲しませやしないのに。二人揃って飲み過ぎて帰れなくなった時、ここぞとばかりに最寄りのホテルへ連れ込んだこともあった。下心があったはずなのに、おれはどうしようもなく意気地のない男だったようで、彼女に手出しすることは全くしなかった。おかげで、何度ベッドに二人でなだれ込んでも、今の今まで何かが起きた試しが無い。お互い自棄になって酒に溺れたはずなのに。苦しい傾慕も苦い酒も抜けない二日酔いのおれに対して、愚痴も胃の中も吐き散らかした彼女は清々しい表情で朝を迎えていた。「おはよう」と一番に彼女の声を聞く日は、おれにとって愁然で死にたくなるような朝になる。その日は一日中生き地獄気分だ。それでも、おれは憐れで可愛想な彼女に手を差し伸べ続けた。誰かれ構わず救いを求めたがる彼女の手を掴むのは、今までもこれからも、おれだけで良い。そして、彼女がおれを頼ってくれるのなら、どんな手も使ってやる。たとえ、それが彼女を傷つける行いだったとしても。彼女とおれの繋がりが消えないようにするためなら、彼女が泣いて乞いてもやめてやらない。「ネズぅ~、あたしまた振られちゃったよぉ……」「そうですか」イルミネーションが恋人たちを照らす夜。また泣き喚きながら酒を呷る彼女の姿に、おれは懊悩と愉悦を噛み締めた。こうしておれは今年も彼女の失恋を成就させることに成功した。きっと明日には、あの愁然の朝が待ち構えていることだろう。

 

write:2019/12/25

edit  :2021/08/28

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