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​2019/12/16

どんなに勝気でお喋りなわたしも、こうやってベッドに押し倒されてしまうと、よく動いていた憎まれ口も止まってしまう。「おまえは、こういう雰囲気になると黙りますよね」わたしを押し倒してきたひと、ネズがわたしに覆い被さって見下ろしながら言った。彼の首元のチョーカーが揺れて、軽い金属音が鼓膜に響く。「……そ、ういうネズは、よく喋るようになるよね」ネズから視線を逸らしながら、何とか絞り出せた声で嫌味を言っておいた。今のネズの顔がこわくて、直視できない。いつもの気怠げそうなネズじゃないから。例えるなら、ライブしている時のようだ。淡い色の目が爛々としてて、白い頬を紅潮させて、吐息すら高揚している。「そうですね。しおらしくなるおまえを見ていると、つい饒舌になっちまうみたいです」どこまでが本当で、どこまでが冗談なのだろう。ただ分かるのは、その情欲的な声に煽られている感覚。なんだろう、落ち着かない。好きじゃない。「従順だって言いたいの? このわたしが? まさか、あり得ない」とっさに紡いだ言葉は、悪態にもなりゃしない。だからわたしは、この雰囲気が苦手だ。わたしがわたしで居られなくなってしまう。旧知の間柄のはずのネズも別人のようになっちゃう。まったくもって好きじゃない。「今のうちにいつもの憎まれ口を叩いておくといいですよ。この後じゃきっと叩けねぇでしょうからね」とか言っておいて、わたしが口を開けたら塞いで来やがった。元から叩かせる気なんてないじゃん。発声のために吸い込んだ空気すら持っていかれたことで、頭のてっぺんから足のつま先までが酸素不足で熱くなっていく。目も開けられなくなって生理的に閉じてしまったら、口腔をネズに蹂躙される感触が強く感じた。置き場所を忘れていた両手が、飛んでしまいそうな意識を繋ぎ止めようと、ベッドのシーツをしわくちゃに掴む。身体中が熱くてもどかしいのに、垂れて来るあのチョーカーが突き刺さるように重くて冷たかった。やっぱり、好きじゃない。

 

write:2019/12/16

edit  :2021/08/10

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