top of page

​2019/12/10

※ネズ→夢主→誰か

​ 

 わたしは今日も、死んだ男の亡霊に追われている。

 そう話を始めると、ネズくんは「そんなの幻覚ですよ」とあっさり一蹴した。

 幻覚じゃないよ。わたしは確かに追われている。何をしていようと、何を考えていようと、誰といようと、あの男は必ずわたしに付いてくる。そして、わたしを見ている。あの琥珀を閉じ込めたような瞳で。

「……今も居るんですか?」

 もちろん、居るよ。わたしのことを真っ直ぐ見てる。あ、いま目があった。

「目を塞いでたらどうです」

 目を塞いだって意味ないよ。わたし“が”見ているんじゃなくて、わたし“を”見ているんだから。今は、そう、見下ろしているよ。わたしと、わたしに覆い被さっているネズくんを。

「デリカシーの無い人ですね」

 うん、そうかも。あ、いや、彼は表情に敏感な人だったから、そんなことはないはずだよ。

「そっちの方がタチがわりぃよ」

 まあ、嫌がらせってことだもんね。確かにタチ悪いかも。

「というか、っ、おれとヤってる時に他の男について話すのやめなさい」

 えぇ、だって見られているんだもん。ちょっと興奮するじゃん。ネズくんだって、まんざらじゃないでしょ?

「っなら、見せつけてやりますかね」

 そう言われて、今とても敏感になっているところを抉られたわたしはたまらず上擦った声を上げる。ネズくんも、あの亡霊も、わたしを見下ろして目を細めていた。その熱がこもる視線が、いやにあつくるしかった。

write:2019/12/10

edit  :2021/08/09

 またくだらない話を始める彼女に、おれはそんなのは幻覚だと一蹴する。

「幻覚じゃないよ。わたしは確かに追われている。何をしていようと、何を考えていようと、誰といようと、あの男は必ずわたしに付いてくる。そして、わたしを見ている。あの琥珀を閉じ込めたような瞳で」

 ……今も居るんですか?

「もちろん、居るよ。わたしのことを真っ直ぐ見てる。あ、いま目があった」

 目を塞いでたらどうです。

「目を塞いだって意味ないよ。わたし“が”見ているんじゃなくて、わたし“を”見ているんだから。今は、そう、見下ろしているよ。わたしと、わたしに覆い被さっているネズくんを」

 デリカシーの無い人ですね。

「うん、そうかも。あ、いや、彼は表情に敏感な人だったから、そんなことはないはずだよ」

 そっちの方がタチがわりぃよ。

「まあ、嫌がらせってことだもんね。確かにタチ悪いかも」

 というか、っ、おれとヤってる時に他の男について話すのやめなさい。

「えぇ、だって見られているんだもん。ちょっと興奮するじゃん。ネズくんだって、まんざらじゃないでしょ?」

っなら、見せつけてやりますかね。

 そう言って彼女の繊細なところを丁寧に抉ってやれば、彼女はたちまち背中を弓なりにしならせて上擦った声を上げる。亡霊がなんだ。おまえを置いて死んだ野郎なんか、気にすることなんてねぇだろ。それとも、そいつに未練でもあるんですかね。だから幻覚なんて見ちまうんでしょう。いま、きみと繋がっているのは、おれだ。おれを、みてくださいよ。

​ 彼女は今日も、死んだ男の亡霊を追っている。

bottom of page